松島総合法律事務所
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 ここ数日間、私が連載していた「システムの運用保守をめぐる法律問題」に対するアクセスが異常に増加しました。おそらく、ファーストサーバの大規模なデータ消失事故の影響であると思われます。また、ファーストサーバのデータ消失事故について、複数の会社から電話での問合せも受けましたので、弁護士の立場から、私もこの事故に関する法律問題(損害賠償請求の可否、免責条項の適用の有無等)についてコメントしておきたいと思います。

 

   事故の原因等について、すでに、ファーストサーバ株式会社(以下「ファーストサーバ」という。)が、自己の運営するサイトで報告しているので、詳細についてはこちらを参照していただきたいと思いますが、要するに、ファーストサーバが、誤って、データを消失させてしまい、なおかつ、消失したデータを復旧させることができなくなってしまったというものです。

 

 このようなデータ消失事故に関する検討手順については、本サイトの「システムの運用保守をめぐる法律問題(1)〜(5)」や「システム担当者のための法律相談」(発行元インプレスジャパン)の165〜169頁で解説させていただきましたが、この事故も、仮に、訴訟・裁判に発展すれば、おおむね、同様の検討がされることになるのではないかと考えられます。

 

1 ファーストサーバの債務不履行または不法行為

 まず、レンタルサーバ事業者には、少なくなとも、自らの行為によって稼働中のサーバのデータを消失させてはならないという義務が課せられていると考えてよいと思いますので、債務不履行又は不法行為が成立することになる可能性が高いのではないかと思います。「レンタルサーバ」という文言等に着目して、サーバをレンタルしさえすればよく、データの扱いについては何らの義務も追わないとする見解を持っている方もいらっしゃるかもしれませんが、少なくとも、ファーストサーバが、「自らの行為によって」データを消失してはならないということは当然であり、契約者がファーストサーバに対し、債務不履行または不法行為を根拠に損害賠償請求することが考えられます。

 

2 契約者の損害

 もっとも、このような場合に、どのような項目を損害賠償請求の対象とするのかという点は、難しい問題です。損害賠償請求する契約者は、バックアップを採取していなかった契約者が中心となることが予想されますが、どのようなデータが消失してしまったのかという点の立証が困難ではないかと思います。民事訴訟法248条の適用も視野に入れた訴訟活動をする必要があるでしょう。

 

3 バックアップの不存在により発生した損害の過失相殺又は免責 

  仮に、損害の発生が肯定されたとしても、ファーストサーバの約款第16条には、契約者にバックアップを採取する義務が課せられていますので、損害賠償請求するとしても、契約者がバックアップを採取していなかった場合、過失相殺により損害額が圧縮されてしまう可能性が高いのではないかと思います。

  更に、バックアップを採取していさえすれば防止できた損害については、約款第16条第3項に「契約者が契約者保有データをバックアップしなかったことによって被った損害について、当社は損害賠償責任を含め何らの責任を負わないものとします。」とも規定されていますから、バックアップしなかったことによって発生した損害は、損害賠償請求できない可能性があります。

   契約者の立場からすると、初期導入コストを抑えるためにレンタルサーバ等のクラウド・サービスを利用することにしたにもかかわらず、バックアップは契約者側で用意しなければならないとしたのでは、いざという時には、バックアップをシステムで稼働させる必要性があり、クラウド・サービスを利用するメリットがなくなってしまいそうですが、約款上は、バックアップは契約者の義務とされていますので、過失相殺又は免責されることになるのではないかと思います。

 

4 約款に記載された免責条項等の適用の有無

 更に、過失相殺された後の損害を賠償してもらおうとしても、ファーストサーバの約款第35条8項には、「当社の故意または重過失が存在する場合または契約者が消費者契約法の消費者に該当する場合には適用しません」との一定の留保が付されているものの免責条項が規定されていますので、契約者が消費者(個人)の場合はともかくとして、契約者が法人の場合にはファーストサーバに重過失が認められるか否かという点も問題になりそうです。なお、重過失の意味については、最高裁判所が以下のように判示しています。

 

(最高裁判所昭和32年7月9日判決)

重大な過失とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解するのを相当とする。

 

 その上、ファーストサーバの約款第36条には、損害賠償の上限条項が設けられ、「契約者が当社に本サービスの対価として支払った総額を限度額として賠償責任を負うものとします。」と規定されており、月額費用が1万円〜数万円程度に設定されていることからすると、実際には莫大な損害が発生しているにもかかわらず、ごくわずかな損害賠償請求しかできないということになる可能性もあります。仮に、この条項が適用された場合、月額費用1万円程度のサービスを1年間利用していた法人は、1万円×12か月=12万円に初期費用の額を加えた程度の損害賠償請求しかできないことになってしまいます。

 

5 まとめ

  以上のとおりですので、約款や法律の規定に忠実に判断すると、結論としては、以下のようになります。

 

(1)契約者が個人の場合

①ファーストサーバに重過失ありと判断された場合

バックアップの不存在による損害について過失相殺等の処理がされた後の損害が全額賠償される(消費者契約法で、免責規定が無効)。

②ファーストサーバに重過失なしと判断された場合

バックアップの不存在による損害について過失相殺等の処理がされた後の損害が対価として支払った総額を限度額として賠償される。

 

(2)契約者が法人の場合

①ファーストサーバに重過失ありと判断された場合

バックアップの不存在による損害について過失相殺等の処理がされた後の損害が対価として支払った総額を限度額として賠償される。

②ファーストサーバに重過失なしと判断された場合

賠償されない。

 

  上記のように整理してみると、契約者の方はがっかりしてしまうかもしれませんが、現実の裁判では、約款の解釈等により、免責される場合が限定される場合もあります。必ずしも約款とおりの判断になるとは限りませんので、簡単にあきらめてしまう必要はないようにも思います。もっとも、被った損害額、今後のファーストサーバの対応等を考慮した場合、訴訟・裁判等の紛争処理に時間をかけるよりも、本業の立て直しに注力したほうがよい契約者も多数存在するように思いますので、訴訟提起するか否かの判断は専門家と相談していただいた上、慎重に判断していただく必要性があるように思います。

 

6 立法等の必要性について

  ファーストサーバに限らず、レンタルサーバ事業者は、これでもかというぐらいに免責条項、責任制限条項を規定した約款を提示し、契約者がこれに同意しなければサービスを利用できないという仕組みを取り入れています。これは、安価な料金でサービスを提供しているだから、事故が発生した時の損害賠償請求をまともに支払っていたのではビジネスが成立しないという考え方に基づくものではないかと思います。

  このような考え方は、厳しい価格競争を強いられているレンタルサーバ事業者の経営者の立場としては、非常によく理解できるのですが、他方で、契約者が安心して利用できるサービスが提供されなくなってしまうおそれもあるのではないかと思います。レンタルサーバ事業等のクラウド・サービスの安全性を疑問視する意見も根強く指摘されており、ファーストサーバのデータ消失事故は、改めてクラウド・サービスはどうあるべきかを考えるよい機会になるのではないかと思います。個人的には、レンタルサーバ事業者等のクラウド事業者との契約では、①過度な免責条項、責任制限条項については無効とした上、クラウド事業者には十分な損害保険等の活用を義務付ける②クラウド事業者に、免責条項の適用範囲やバックアップを採取する義務の有無等の重要事項についての説明義務を課す③第三者機関が、クラウド事業者が提供するサービスの安全性(サービスの提供内容のみならず契約内容も対象とした安全性)についての格付けを行い契約者に提示する等、立法上または制度上の配慮をしたほうが、契約者が安心して利用することができるようになり、クラウド・サービスが普及するのではないかと思います。

                     以上 

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