松島総合法律事務所
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前回は、ロクラクⅡ事件やまねきTV事件の判示内容について説明しました。専門家の中でも、これら2つの最高裁判決の射程が広く解釈される結果、クラウド・コンピューティングを採用したサービス(以下「クラウド・サービス」といいます。)等、多数のサービスが違法になってしまうのではないかという点を懸念する声を聞きます。そこで、今回は、これら2つの判決が、クラウド・サービスを利用したサービス等に及ぼす影響について検討してみようと思います。
1 ロクラクⅡ事件最高裁判決が他のサービスに及ぼす影響
まず、複製の主体の判断方法を示した、ロクラクⅡ事件がクラウド・サービス等に及ぼす影響から検討してみます。前回に引き続き、ロクラクⅡ事件の判示内容を確認してみます。
最高裁判所平成23年1月20日判決(ロクラクⅡ事件)
(a)放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて、サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が、その管理、支配下において、テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて、当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には、(b)その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても、サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち、(c)複製の主体の判断に当たっては、複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ、(d)上記の場合、サービス提供者は、単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず、(e)その管理、支配下において、放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという、複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており、複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ、当該サービスの利用者が録画の指示をしても、放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり、サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。
ロクラクⅡ事件の判決では、下線部(a)で、判断の前提となるサービスについて、「放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて」「管理、支配下において、テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて、当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合」と判示しており、これを受けて、下線部(d)(e)で下記のとおり判示しています。
(d)上記の場合、サービス提供者は、単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず、
(e)その管理、支配下において、放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという、複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており、
下線部(d)の「上記の場合」とは下線部(a)で判示した「管理、支配下において、テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて、当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合」のことですから、下線部(d)(e)もロクラクⅡ事件で問題となったサービスと同種のサービスを前提として判示しているように思います。
そうすると、結局、一般論として意味があるのは、下線部(c)の部分だけということになるのではないかと思います。もっとも、下線部(d)には、ロクラクⅡ事案とは異なる類型のサービスに対する配慮もされているように思います。下線部(d)では「サービス提供者は、単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず、」と判示しています。要するに、この部分は、単にクラウド・サービスを提供するために、サーバ等のハードウェアや汎用的なソフトウェアを提供しているだけでは、下線部(c)で採用した基準をもってしても、複製の主体とはならないと判示しているのではないかと思います。
従って、少なくとも、本判決を根拠にして、単にクラウド・サービスを提供するために、サーバ等のハードウェアや汎用的なソフトウェアを提供しているだけの業者が複製の主体であると判断されることはないのではないかと思います。
2 まねきTV事件最高裁判判決が他のサービスに及ぼす影響
最高裁判所平成23年1月18日判決(まねきTV事件)
自動公衆送信が、当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると、(a)その主体は、当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり、(b)当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これに継続的に情報が入力されている場合には、(c)当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。
まねきTV事件の判決では、下線部(a)で、自動公衆送信の一般論を述べた上、判断の前提となるサービスについて、下線部(b)で、判決の射程を設定し、下線部(c)において結論を述べています。従って、ロクラクⅡ事件と同様、まねきTV事件も、下線部(b)で射程を限定していますので、クラウド・サービス全般に、この判決が適用される結果、著作権侵害の主体と認定されてしまうということではないように思います。
3 まとめ
以上のとおりですので、ロクラクⅡ事件にしても、まねきTV事件にしても、最高裁判所の判決は、射程を限定しているように思います。従って、これらの最高最判決を根拠に広く、クラウド・サービスを提供する事業者が、著作権侵害の主体であると判断されるわけではないと思います。もっとも、全く責任がないのかというと、そうではないように思います。仮に著作権侵害の主体と判断されなかったとしても、幇助者であると判断される可能性があるのではないかと考えられるからです。そして、「幇助」によって法律的な責任が発生するのは、不法行為と判断される場合ですので、「故意・過失」が要件となります。
従って、クラウド・サービスで汎用的なハードウェアやソフトウェアを提供する事業者は、自己が提供するハードウェア及びソフトウェアが、ユーザ企業によって、どのように利用されるのかという点を、あらかじめヒアリングする等の手続きをとり万全を期す必要性があるように思います。
以上