松島総合法律事務所
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前回は、間接侵害の類型について、侵害ツール提供型、放送番組の録画・転送型型、著作物投稿型の3つの類型に分類することができるのではないかということを説明させていただきました。今回は、この3つの類型のうち、侵害ツール提供型について検討してみようと思います。この類型に該当する代表的な事件は、最高裁判所でも判断されている「ときめきメモリアル事件」がありますので、この事件を中心に、いかなる場合に著作権侵害となるのかを検討してみようと思います。
1 ときめきメモリアル事件について
この事件は、X社が販売していたシミュレーションゲームについて、Y社が、専らこのシミュレーションゲームのストーリー改変を目的とした、パラメータを記録したメモリーカードを販売等していたという場合に、X社がシミュレーションゲームの著作権者であったY社がいかなる責任を負うことになるのかという点が問題となった事案です。
この事案において、直接シミュレーションゲームのストーリーを改変するのは、メモリーカードを購入して使用するユーザであって、Y社ではありません。しかし、最高裁判所は、下記のとおり言及して、Y社の責任を肯定しています。
最高裁判所平成13年2月13日判決(ときめきメモリアル事件)
上告人は、専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入、販売し、多数の者が現実に本件メモリーカードを購入したものである。そうである以上、上告人は、現実に本件メモリーカードを使用する者がいることを予期してこれを流通に置いたものということができ、他方、前記事実によれば、本件メモリーカードを購入した者が現実にこれを使用したものと推認することができる。専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入、販売し、他人の使用を意図して流通に置いた上告人は、他人の使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして、被上告人に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である。
この最高裁判所の判決では、下記の2つの客観的な要件で、「同一性保持権の侵害を惹起したものとして、・・・不法行為に基づく損害賠償責任」を肯定しているではないかと思います。
① 専ら著作権侵害に利用される物を販売等したこと
② 購入した者が現実にこれを使用したこと
そして、この要件は、後述するように、その後の下級審裁判例でも受け継がれているように思います。
2 下級審の裁判例について
ときめきメモリアル事件とよく似た事案として、東京地裁平成14年8月30日判決(DEADOR ALIVE2事件)があります。この事件でもゲームの編集ツールを販売していた業者の責任が問われています。この事件でも、前述したときめきメモリアル事件と同様の理論で、編集ツールを販売していた業者の責任を肯定しています。
これらの裁判例については、「同一性保持権の侵害を惹起した」という点を根拠に責任を肯定していることを理由に、侵害行為の主体はユーザであるけれども、幇助的な役割を果たしたツールの販売業者の責任を肯定したと考える見解と、ユーザを手足とみて販売業者が侵害行為の主体であるとみる見解とがあります。しかし、いずれにしても、販売業者の責任が肯定され、無傷ではいられないという点は一致しており、販売業者は、慎重な判断をする必要があります。
また、前述した東京地裁平成14年8月30日判決(DEADOR ALIVE2事件)では、下記のとおり判示している点も注目に値するように思います。
東京地裁平成14年8月30日判決
被告は、現実に利用行為を行っているわけではない者を規範的に利用行為の主体と認定するためには、(1)その者の管理・支配の下に、現実の行為者が当該利用行為を行っていること、(2)その者が、現実の行為者により利用行為がされることにより利益の得ることを目的としていること、以上の要件が具備されることを要するところ、本件については、これらの要件を具備していないから、被告を侵害行為の主体と考えることはできないと主張する。上記(1)、(2)の要件を具備している者が、著作権侵害の主体として責任を負うことがあるとしても、著作権侵害の責任を負う者が、このような者に限定される理由はない。
この部分は、被告が、販売事業者の責任が肯定されるための要件として、最高裁判所昭和63年3月15日判決(クラブキャッツアイ事件)のカラオケ法理を引用したところ、裁判所がこれを排斥したものであると考えられます。従って、間接侵害の問題として取り上げられる事案の中には、少なくともときめきメモリアル事件の最高裁判所の判断に従うものと、クラブキャッツアイ事件のカラオケ法理の影響を受けているものとがあるのではないかと考えられます。
3 まとめ
今回は、間接侵害の類型の中でも、特に、侵害ツール提供型をとりあげ、責任を追及するための要件を具備する場合に販売事業者が責任を負うのかという点を確認し、次回とあり扱うまねきTV事件やロクラクⅡ事件とは異なる要件で判断される枠組みの類型があることを示しました。
次回は、クラブキャッツアイ事件のカラオケ法理の影響を強く受けているまねきTV事件やロクラクⅡ事件を題材にして、番組録画予約型について検討してみようと思います。
以上