松島総合法律事務所
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1 過失相殺とは

   前回は、システム運用事業者の過失について言及しました。システム運用事業者に過失が認められ、これによって損害が発生したことになると、利用者側の損害賠償請求が一応認められるための最低限の条件が揃うことになります。しかし、システムの利用者が被る損害は、必ずしも、システム運用事業者の過失に起因するものばかりではありません。特に、損害額が高額となる場合、システム運用事業者の過失のみならず、利用者側の過失も損害額を膨らませる原因となっている場合があります。このような場合、システム運用事業者は、利用者側の過失を適示して、損害賠償額の減額を求めるわけです。そして、過失相殺自体は、民法に規定されている考え方なので、システム運用事業者は、過失相殺の規定が契約書に記載されていなくても主張することができるわけです。

 

民法418条
債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。

 

2 ジェイコム株誤発注事件における過失相殺の主張

 では、現実の裁判では、どのように過失相殺の主張が判断されているのでしょうか。この点について、ジェイコム株誤発注事件(東京地裁平成21年12月4日判決)では以下のように判示しています。

 

(東京地裁平成21年12月4日判決)
  原告の①発注管理体制の不備(発行済株式数を基準とした発注制限を設けておらず、かつ、警告表示時に他の従業員が注文内容を確認するとのダブルチェック体制をとっていなかった)や、②本件売り注文行為における原告従業員の警告表示の無視を含む不注意は著しいものであって、原告には過失相殺を基礎付けるに足りる過失があったというだけでなく、その注意義務違反の程度において故意に準じる著しいもの、すなわち重過失があったといわざるを得ない。

 この事案では、原告となったシステムの利用者側も、①発注管理体制の不備、②警告表示の無視(システムからのアラーム表示を無視して取引していた)という事情が認められたため、3割の過失相殺が認められています(裁判所が原告の損害であると認定した金額から、3割の金額が減額されています。)。 システムの利用者側も、システム利用時のマニュアルを整備し、システムを利用する体制を整える等の措置をとる必要性があるということになります。特に、システム利用者の従業員が、システムからの警告を無視して注文していたという点は、内部統制の問題としても取り上げることができそうです。

 

3 バックアップの有無が過失相殺の問題となることも
  過失相殺が問題となった事案として、ジェイコム株誤発注事件(東京地裁平成21年12月4日判決)を紹介しました。この事案だけですと、極めて特殊な事案でしか問題とならないようにも見えますが、過失相殺の適用の有無が問題となる典型的な事案として、「レンタルサーバーの運用・保守業務を行っているシステム運用事業者が、あやまってシステム利用者がサーバに格納していたデータを消去してしまい、システム利用者も消去したデータのバックアップを採取していない」というケースがあります。このようなケースについて、東京地裁平成13年9月28日判決は以下のように判示しています。

 

(東京地裁平成13年9月28日判決)
  原告(システム利用者)は、本件ファイルの内容につき容易にバックアップ等の措置をとることができ、それによって前記4の損害の発生を防止し、又は損害の発生を極めて軽微なものにとどめることができたにもかかわらず、本件消滅事故当時、原告側(システム利用者)で本件ファイルのデータ内容を何ら残していなかったものと認められる。
 そして、本件においては、被告(システム運用事業者)の損害賠償責任の負担額を決するに当たり、この点を斟酌して過失相殺の規定を適用することが、損害賠償法上の衡平の理念に適うというべきである。
※括弧内は、筆者が加筆

 

この事案では、上記のとおり、過失相殺の主張を認めたうえ、過失割合を5割と認定しています。システムの利用者側としては、自分がバックアップをしなければならないという意識はあまりないかもしれませんが、上記のようなレンタルサーバーの運用・保守をしているシステム運用事業者との契約書や約款を見ると、「システム運用事業者はバックアップの義務を負担しないこと」、又は「システム利用者側がバックアップ措置を講じること」といった明文の条項が設けられていることがあります。このような場合、この判決が指摘するように、過失相殺の主張が肯定され、一定の過失割合が認定されてしまうのではないかと思います。この類型の紛争は、バックアップさえ存在すれば、少なくとも訴訟になることはまずありません。システム利用者とシステム運用事業者のいずれがバックアップを採取することになっているのか、約款や契約書を十分確認していただきたいと思います。


4 まとめ
 
システムを利用する企業の立場からすると、システム運用事業者からの過失相殺の主張を許さないシステムの利用をする必要があるといえます。東京地裁平成21年12月4日判決のように、発注管理体制の不備や原告従業員の警告表示の無視という状況があったのであれば、過失相殺されるのは当然でしょう。損害額が高額になると、過失割合が1割異なるだけで、訴訟での認容額にかなりの金額的な差が出てしまいます。ユーザ企業も、マニュアル等の管理文書等に従った、厳格な運用が要請される場合があるといってよいのではないかと思います。

以上

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