システムの運用・保守をめぐる法律問題(1)システム運用・保守時の障害が原因で発生する紛争の特徴と検討手順

1 システム運用時の紛争は、システム開発時の紛争よりも深刻になる傾向

 以前「システム開発委託契約をめぐる法律問題」をとりあげました。しかし、IT企業及び企業のシステム部門は、開発するのみならず、開発したシステムを安定して運用できなければ意味がありません。最近ではジェイコム株の誤発注事件(東京地方裁判所平成21年12月4日判決)等において、システムの運用に失敗した事業者が、極めて高額な損害賠償義務を負担すべきであるとの判断がされています。システムの運用・保守時における紛争は、システム開発時の紛争ほど、数的には多くないように思います。しかし、一度システム運用時に障害が発生すると、多数の利害関係人に影響がでることになります。証券取引システムの障害によって、注文取消が不可能となってしまったジェイコム株の誤発注事件(東京地方裁判所平成21年12月4日判決)、航空便の予約チェックインシステムの障害によって航空機の到着予定時刻を大幅に遅延させた事件(千葉地方裁判所平成21年4月17日判決)、以前「ネットオークションをめぐる法律問題」でとりあげたYahooオークション事件(名古屋地方裁判所平成20年3月28日)を見ても明らかです。このような事情から、システムの運用段階の障害が原因で紛争になると、損害賠償額が高額になりやすい、当事者が多数になりやすいといった傾向があるように思います。

 

システム運用・保守時の障害に起因する紛争の検討手順

 では、システム運用時の障害に起因する紛争では、何を検討しなければならないのでしょうか。過去の裁判例を見ると、概ね以下の点についての検討が必要ではないかと思われます。

@システムを運用する事業者(以下「システム運用事業者」という)とシステムの利用者(以下「利用者」という)との間の契約(以下「利用契約」という)に基づいてシステム運用事業者が負担する義務の内容

Aシステム運用事業者が@で認定した義務に違反した場合の過失の有無

B利用者に損害が発生した場合の損害額(特に過失相殺の法理の適用)

C利用契約で規定された免責条項の適用の有無 以下、各論点について、どのような点を検討する必要があるのか簡単に解説します。

 

利用契約に基づいてシステム運用事業者が負担する義務の内容

 システム運用事業者に契約責任を追及するためには、システム運用事業者が、債務不履行となっていることを主張・立証しなければなりませんが、債務不履行となっているか否かを判断する前提として、システム運用事業者が、どのような義務を負担していたのかを確認する必要があります。システム運用事業者が負担する義務の内容は約款や契約書等をみれば明らかではないかと思われるかも知れませんが、必ずしもそうではありません。例えば、前述した、航空便の予約チェックインシステムの障害によって航空便の到着予定時刻を大幅に遅延させることとなった事件(千葉地方裁判所平成21年4月17日判決)では、システム運用事業者である航空会社に、到着予定時刻通りに運送する義務まで課されているのか、それとも、予定時刻の到着の実現に向けて合理的な最善の努力をする義務が課せられているに過ぎないのかという点が問題となっています。更に、利用契約に記載がなくても、利用契約の締結に伴い、通常は運用事業者に、利用契約に関する付随義務が発生します。利用契約に関する付随義務の内容は、利用契約に明記されているとは限りませんし、システムを利用して提供するサービスの内容によっても異なるものですから、必ずしも明らかではありません。事案ごとに検討する必要がありますが、具体的には、どのような判断がされているのか、次回以後、千葉地方裁判所平成21年4月17日判決を参照する予定です。

 

  システム運用事業者の過失の有無

 仮に、システム運用事業者に債務不履行が認められたとしても、システム運用事業者に過失(責めに帰すべき事由)が認められなければ、システム運用事業者に対して責任を追及することはできません。システム障害に起因する紛争の場合、システム運用事業者の過失を検討するにあたり、まずは、システム障害が発生したことで、システム運用事業者に過失が存在したと判断できるか否かを検討することになるでしょう。システム障害を発生させたのであるから、システム運用事業者に過失(責めに帰すべき事由)が認められるのは当然と思われるかも知れませんが、そう単純ではありません。システム障害と言っても、障害発生時の技術水準から見て、やむを得ないと判断される場合もあります。次に、システム障害が発生したこと自体はやむを得ないと判断されたとしても、その後の対応に不備があり、この点をもって、システム運用事業者の対応等に過失(責めに帰すべき事由)が認められる場合がありえます。このように、現実の裁判では、@システム障害を発生させたこと自体の過失の有無Aシステム障害が発生した後の対応における過失の有無の2点が判断の対象となることが多いように思います。 

 

過失相殺の法理について

 現実の事件・事故において、利用者が被る損害が高額となる場合、システム運用事業者の過失(責めに帰すべき事由)のみならず、利用者側にも過失が認められ、両方の過失の相乗効果によって、利用者の損害額が高額になる場合も少なくありません。そこで、システム運用事業者の過失(責めに帰すべき事由)によって、利用者に損害が発生した場合であっても、システム運用事業者としては、損害賠償額を減額すべく、過失相殺(民法722条)の主張をすることになります。具体的な過失相殺の主張内容については、次回以後、裁判例を確認していこうと思います。 

 

利用契約で規定された免責条項の適用

 過失相殺という考え方は、損害額を減額するための主張なので、この主張をしたからといって、システム運用事業者の損害賠償義務が消滅することにはなりません。そこで、システム運用事業者は、利用契約の内容が記載された約款や契約書に規定されている免責条項に基づいて、損害賠償義務の免責を主張することになります。現実の免責条項の規定方法を見ると、

@    システム運用事業者に重過失がない場合のみ免責される

A    システム運用事業者は、いかなる場合でも免責される

の大きく分けて2つの類型があるように思います。@の場合、「重過失」の意味とシステム運用事業者に重過失が認められるか否かが問題となりAの場合、契約当事者の意思解釈などの観点から、約款や契約書で使われている文言よりも、場面を限定して免責の対象とする余地がないのかという点を検討することになります。この点についても次回以後、各種の裁判例を参照しながら、どのような判断がされているのか確認する予定です。

 

7 まとめ

 今回は、システムの運用・保守時の障害に起因する紛争の特徴や検討手順(問題となる争点)について言及しました。次回以後は、現実の裁判例を参照しながら、各争点においてどのような判断がされているのかという点を中心に確認していきたいと思います。

以上 

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